氷結の黒薔薇姫

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タクシードライバーに出会いを求めるなんてと思っていたら、会社に高嶺の花がいた件 [氷結の黒薔薇姫]


第一章 タクシー会社にいた高嶺の花
02 氷結の黒薔薇姫

「おはよう牧野君! 今日もご苦労さんだね」

 会社の玄関を掃除していると、田宮課長が挨拶をしてくれた。
 今日も、バシッと決まったオールバック。かっこいいです!

「おはようございます田宮課長! いえ、何かこうしていないと落ち着かないので······」

 本来は、やらなくてもいい清掃作業を俺がしていたため、それについて、田宮課長は気をつかってくれたようだ。

 しかし、いまの俺は教習所に通っているだけで給料が貰えるらしく、それでは何だか申し訳ないと思い、先日会社に申し出て自主的に掃除を買って出たのである。

「そうか、まあ、君がそう言うなら······。でも、あまり無茶はするなよ」

 挨拶もほどほどに済ませると田宮課長は、去り際に手を上げ事務所へと入っていった。
 俺は田宮課長の後ろ姿に礼をし、ほうきと塵取りを持って再び会社周辺の清掃を開始する。

「よしっ! 外はこんなものでいいか」

 自分に課しているルーティンは、会社周辺の清掃とトイレ清掃、休憩所の清掃に片付けを毎日することと決めている。掃除系ばかりだけど······。

 まあ、それは自己満でしかないけど、でも仕事をやっているという充実感はあった。
 

「おっはよーマッキー! おっ! 今日も頑張ってるねー!」

「あ、おはようございます村野さん!」

 休憩所の片付けをしているとき、村野さんが入ってきた。
 休憩所と言っても、厳密には事務所前にある作業場みたいなところで、日報の受け渡しや記入、両替、納金などを行ったりするような場所となっている。

 もちろん休憩も出来なくはないが、そんなに広くないので少し落ち着かないかもしれない。
 ちなみに、ちゃんとした休憩所は二階にある。

「どう? 教習所の調子は?」

 村野さんは紙カップ式の自販機にお金を入れ「どれにする?」といってくれたので、アメリカンの無糖を押した。

「はい、お陰さまで今のところ順調です! あと一週間くらいで卒業出来そうです」

「お、いいねー! 早くこっちの世界にこいよ。色々と教えてやっからよ」

「はい、その時はよろしくお願いします! あ、コーヒーありがとうございます」

 ──ガチャ。

 その時、作業場の扉が開いた。 
 それと同時に、綺麗な黒髪をそよそよとたなびかせながら宮坂美咲さんが入って来た。

 宮坂さんは日報のバインダーを両手に持ち、一度こちらを一瞥すると、俺たちとは正反対の場所に向いそこで腰をおろした。

 しばらくその様子を見ていると、タコグラフの数値を黙々と日報へと記入しはじめる。

 すらすら書き上げていくその姿は、まるでどこかの令嬢然としていて気品がよく、気がつけば俺はその姿を目で追っていた。

 何をするにしても絵になる人だな。
 あれだけの美人さんだ、きっと誰かと付き合っているんだろうなぁと、俺は勝手な想像を膨らませていた。

 五分ほどで日報作業を終えた宮坂さんは、納金を済ませると「チェックをお願いします」と言ってからその日報を事務員さんに手渡した。

 すると、そのタイミングを見計ったかように村野さんが口を開く。
 
「宮坂、今日はもう閉店か?」

 チェックが完了したところで、宮坂さんはこちらに体を向けた。

「班長会議に出席するために帰ってきたの。 ──ところで村野君は今から出庫? 稼げる時間をみすみす逃しているのではないかしら? ──それと······牧野君。あなた、こんな所で油を売っているようだけど、教習所の学科の方は大丈夫なの? もう少し、しっかりと勉強に取り組むべきだと思うのだけど」

 そう言い終えると宮坂さんは、何事も無かったかのように涼しい顔で作業場から出ていった。
 取り残された俺たちは無言のまま、ひとまずコーヒーを飲んだ。

 ──うぁ、なにこの剣呑な雰囲気は!? もしかして村野さんと宮坂さんって仲が悪かったりする?
 ······なんか気まずい。

「いつもの事だから心配するなよ?」

 あっけらかんと答える村野さん。
 コーヒーをぐいっと飲み干すと、紙コップをクシャッと握り潰しそのままゴミ箱へと放り投げた。
「あいつ、この会社で何て呼ばれているか知ってるか?」

 と、村野さんが突然そんなことを聞いてきた。

「いえ、分かりません······」

「氷結の黒薔薇姫って呼ばれてるんだぜ、あいつ」

 え、なにそれ!? 思わずオタク心をくすぐるようなネーミングに、つい胸を熱くさせてしまった······。
 ──しかし、なんて禍々しいあだ名なんだ······。

「今の感じで何となく分かったと思うけど、接し方は冷たく、そして触れようとすると棘を刺すように、嫌味で返すとんでもない奴なんだ」

 同じ班と言うことで、一応俺に分からせるため実体験をもって教えてくれたようなのだが、なかなかどうして、厳しいものがあった。
 美人だけに、勿体無い······。

「ちなみにこのあだ名、高校生時代からずっと言われ続けているんだぜ。──大人になった今でもこうして呼ばれてるんだから、ある意味たいしたもんだぜ」

 高校時代、学年は違えど村野さんと宮坂さんは同じ学校だったそうだ。その頃から宮坂さんは美少女としてその名を馳せていたらしい。

 しかし、宮坂さんは告白されたときのフリ方があまりにも酷く、ついには『氷結の黒薔薇姫』というあだ名が付けられたというのだが······。

 あだ名のネーミングはどうであれ、当時から美人ゆえの何かしらの宿命を、彼女は背負っていたということなのだろうか。

 ······まあ、どちらにしても宮坂さんは怖いし、今後は出来るだけ接しない方がいいかもしれない事はよく分かった。

「ところで村野さんは、宮坂さんに告白したことがあるんですか?」

「ある! と言ってもノリでな。罰ゲームみたいな感じ?」

 ······冗談で聞いたつもりだたのに。まあでも、当時の村野さんってそういう感じの人だったのですね······。

「で、なんて言われたんです?」

「『何かの冗談かしら? あなたの顔を見てると、どういうわけか、性格がクズっぽく見えるから不思議だわ。何度生まれ変わっても、あなたと一緒になることなんて永遠にないと思う』だったような······」
 
 それっぽい口調で、その時のことを村野さんは話してくれた。よくそんな長い台詞を覚えていますよね······。

 まぁ、罰ゲームで告白しようとした時点でアレだと思いますよ村野さん······。
 そう思うと、宮坂さんの言った事、ある意味的を得ているような······。
 
「聞いた話によると、宮坂も色々と苦労してきたみたいだぜ。人のことはあまり言いたくないけどさ。ともあれ、あまり関わらないほうがいいかもな」

 意味深な事を言い残した村野さんは、事務員さんから日報を受け取ると「じぁ、またな!」と言って作業場から出ていった。

 ──やはり、美人なりに色々と悩ましい問題があるということか。
 とにかく、あまり彼女のことを深入りせず、見て楽しむことだけにしておこう······。

 時計を確認すると、そろそろ教習所に行く時間だった。掃除もそこそこに終わらせ、俺は教習所に行く準備を取り掛かることにした。


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