灰色の青春時代(美咲の過去)

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タクシードライバーに出会いを求めるなんてと思っていたら、会社に高嶺の花がいた件 [灰色の青春時代(美咲の過去)]


第一章 タクシー会社にいた高嶺の花
04 灰色の青春時代(美咲の過去)

─美咲の視点─

 私の人生は、ある日を境に崩れ落ちていった。
 それまで楽しかった虹色のような思い出も、ある出来事を切っ掛けに、価値観はねじ曲げられ、その瞬間から灰色の人生が始まったのだ。

 ──中学三年の春。
 私は一般家庭に生まれ、なに不自由なく育ってきた。
 学校生活も年相応らしく、友達とバカなことを言っては笑い、時にはショッピングを楽しんだり、そして······恋をしたり。そういう意味では、順風満帆な人生だったと思う。

 だけど、ある日の晩······。

 すでに就寝していた私は、驚くような怒鳴り声で目を覚ました。

「こ、こんなにも······。どうして今まで黙っていたのっ!!」

「だまれっ!! 俺は家族の為、これからの為にちゃんと考えて······。結果的にこうなっただけだ!」

 ──お父さんとお母さんが喧嘩をしていた。

 その喧嘩は次第に激しさを増す。
 激しく机の叩く音が聞こえ、そうかと思えば今度はガラスの様な物が割れる音まで聞こえてきた。

 今まで幾度となく喧嘩はあったけど、それはすぐ仲直り出来るような軽いもの。
 だけど、今回の喧嘩は尋常ならざるものだった。

 ──お父さんとお母さん、どうしちゃったの?

 私は怖くなって耳を塞ぎ、そして布団の中で震えていた。

 翌朝起きると、お父さんは家に居なかった。
 日曜日の朝は、いつも家にいるはずなのに······。

 もしかすると、散歩か買い物に出ているのかもしれない。私はそう思い、お母さんに尋ねてみた。

「お父さん? 出ていったわよ」

 お母さんは椅子に座り、気だるそうにテーブルで突っ伏している。顔が向こう側に向いているので、今どんな表情をしているのか分からない。

「お散歩?」

 答えは何となく分かっていた。
 でも、聞かずにはいられなかった。
 もしかすると、昨日の喧嘩が終息しているかもしれない······そう思ったから。

 ──だけど······。

「あの人、私たちを置いて出ていったわ······」

 ······私たちを置いて出ていく? 
 今まで考えたことのない現実を突きつけられ、私はすぐに理解できずにいた。

「え!? ······どう言うこと? なんで?」

「知らないわよっ!!!!!」

 お母さんは椅子を倒す勢いで立ち上がり、発狂したのかと思ったくらい大きな声で私に怒鳴る。
 怒りに満ち溢れたその表情は不安に染まり、一日しか経っていないというのに、少しやつれているように見えた。

「ご、ごめんなさい······。ごめんなさい······」

 私は不安になり心の底から謝った。
 もしかすると、お母さんにも見捨てられるかもしれない······。
 そんなことになれば、私はどうやって生きていけばいいの······?

「ごめんだけど、一人にさせてくれないかしら······」

「······うん······」

 お母さんはすまなさそうにそう言うと、力が抜けたように再び椅子に座る。
 私は不安だらけの感情を押し殺し、リビングから出ていく事にした。

 一ヶ月が経った。とうとうお父さんは帰ってこなかった。
 そんなある日、お母さんから驚く事を聞かされる。

「お母さんね、お父さんと離婚することになったの」

「離婚······?」

 もしかするとそんな日がいつかやって来るのではないか? そんな不安を毎日抱えながら私は過ごしてきたが、······とうとう現実となってしまった。

 お母さんいわく、お父さんは株に手をつけ多額の借金を作り、それが元で喧嘩になったという。
 その後、お父さんは女をつくり、今その女性と同棲しているという連絡があったそうだ。

 その時に、離婚を切り出されたらしく、お母さんとしても、そんな甲斐性のないお父さんとは見切りをつけたいと思い離婚に応じたと言う。

 そうなると、世間から私がそういう所の子供だという目で見られ、今後肩身の狭い思いさせてしまうことに懸念したお母さんは、泣きながらに何度も何度も謝っていた。

 ──数日後、家族の形が少しづつ変わっていく。

「お母さんね、来週から働きに行くことになったの。これからは色々と大変になるけど、あなたは、あなたで、高校受験がんばりなさいよ」

「うん······わかった······」

 悲しみ、怒り、儚さ、虚しさが私の心を灰色に染め上げる······。

 ──あいつはグズだっ!! 私は激しい怒りに身体が震えるのを覚えた。

 お母さんは、これから一緒にがんばろうと言うけれど、私の未来はきっと険しい困難が待ち構えている、そんな気がしてならななかった。

 だけど、そんな荒んだ私にも唯一心の支えがあった。

 それは······。
 同じ年の幼なじみ、樟ちゃんがいつも私の側に居てくれることだった。

 幼稚園のころ、隣に引越ししてきた樟ちゃんとは家族ぐるみで仲がよく、いつも一緒に遊んでいた。
 中学になっても離れることなく、当たり前のように私の側に居てくれるそんな優しい人だった。

 付き合ってもいないのに、いくら幼なじみとはいえ、いつも一緒にいる私たちを見て、周りの友達は不思議そうにされるくらい仲がよかった。

 私の家族が大変な時も樟ちゃんは、ずっと私の側に寄り添い、そして「大丈夫。俺がいつまでも側にいるから」と慰めてくれる。
 どんなに辛い時があっても、樟ちゃんが側に居てくれるだけで私の心は温かくなった。

 ──その時私ははじめて、樟ちゃんの事が好きだったんだと気づいた。
 嬉しかった。もっともっと側に居たいと思った。

 ──だけど、そんな幸せな日々はそう長くは続かなかった。

 樟ちゃんは私を残して何処かへ行ってしまったのだ。顔も会わさず説明もなしに。
 私の希望が······。目の前が暗くなっていく······。
 
 その時、私の中でお父さんの顔がよぎった。
 大事な家族を捨て、別の女のところへ行き、最後は謝罪もなく離婚を突き付けた、断じて許せない裏切り者の存在を。

 そんな裏切り者と樟ちゃんを、私はいつしか重ね合わせるようになり嫌悪していく。その思いは次第に強くなり、気づけば彼だけではなく、この世の男性全てがそういう物だと思うようになった······。

 ──そうやって私の心は少しずつ壊れていく。

 お母さんが働きに出るようになって数ヶ月後、突然私たちは引越しをすることになった。
 あの裏切り者が、なんの相談無しに勝手に家を売却したからである。

 お母さんは、私が通う中学の学区内で物件を探してくれた。幸いなことに手頃な物件を見つけることはできたが、しかしお母さんの仕事場からはだいぶ離れてしまった。

 1LDK 。私たちがこれから住むことになったお家。以前住んでいたお家よりも遥かに小さかったけど、私は全く気にならなかった。
 だって、お母さんと一緒に暮らせるだけで、私はとても幸せだったから。

 
 お母さんと二人で暮らしはじめて数ヶ月が経った。中学を卒業し、私はいま地元の高校に通うことになり、それと同時にお母さんは仕事の掛け持ちをするようになった。

 日に日にやつれていくお母さん。
 思えば最近、お母さんの笑顔をみていない気がする······。

「お母さん私、学校に行きながらアルバイトする」

「それはだめ。お母さんに気をつかって言ってくれるのはとても嬉しいけど、これは親の勤めだからあなたは気にしなくていいの。当たり前の事なの。だから、あなたの本分の学業をしっかりなさい」

 お母さんは疲れているのにも関わらず、私に向けいたって元気な笑顔をみせてくれる。
 私がお母さんを励まさなくてはならないのに逆に励まされてしまった······。

 それからというもの私は学業に勤しんだ。
 そのかいあって、成績は学年トップクラスになり、そこから私は将来のことについて考えるようになった。

 将来は奨学金を利用して大学に入り、卒業後は一流企業に就職し、お母さんを楽にさせてあげる事が私の夢。

 だけど、そんな夢ある将来とは裏腹に、私の学校生活は最悪なものだった。
 中学時代に両親が離婚したことついて後ろ指を指す者が現れたのだ。
 どこからその情報が漏れだしたのかは分からないけれど、そうされる理由は何となく分かっていた。

 それは、離婚するような家柄の癖に成績トップだということ。もう一つは、学年問わず色んな男子に告白されまくっていたこと。
 
 ──要するに、私は妬まれていたんだ。

 そもそも、今の成績は私生活の空き時間を勉学に割いたものであって、生まれつき頭が良かったというわけではない。

 そして、男子からの告白に至っては、はっきり言って迷惑でしかなく、私は沢山の人から告白されてはことごとく振っていた。

 自分の容姿が多少いいだろう事は、何となく自覚しているけれど、だけど······私はあの一件から男性のことが生理的に受け付けないのだ。

 そのせいで、私が『氷結の黒薔薇姫』という蔑称で呼ばれていることも知っている。

 妬まれる筋合いなんてどこにもないのに。
 私は自信の身を削って、ひたすら頑張っているだけなのに······。
 誰にも迷惑なんて掛けていないのに。
 なのに······理不尽だ。

 灰色の青春時代。
 私のねじ曲がった性格はこのようにして形成されていったのだ。


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