タクシードライバーに向いていない(美咲視点)

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タクシードライバーに出会いを求めるなんてと思っていたら、会社に高嶺の花がいた件 [タクシードライバーに向いていない]


第一章 タクシー会社にいた高嶺の花
08 タクシードライバーに向いていない

 ──路上研修二日目。

 私はいま評価表を眺めながら、昨日の路上研修を振り返っていた。

 牧野樟太(1日目)
 【評価】並。五段階の三。
 【接客】良。
 【運転技術】並。
 【土地勘】不安あり。
 【備考】少し挙動不審。

「······と、こんなところかしら······。まあ、昨日はあまり不得意なエリアだったそうだから仕方がないけれど······。でも······」

 今日の路上研修は、彼が昔住んでいたエリアなのできっと土地勘はあるはず。

 ──そして、そこは過去に私が住んでいた場所であり、彼と私が一緒に育った場所でもある。
 
 そんな場所柄だから、昔話でも語りながら楽しく研修を行うところなんだろうけど、今の私にはそんな気持すら湧いてこない。

 むしろ怒りが沸々とこみ上げてくるぐらいだ。
 昨日だってどれだけ堪えたことか······。

 そんなことを考えながら私は大学ノートに、今日のコースを組み立てていく。

 しかし、一つ一つのコースを書き上げていくごとに、何故か彼と一緒にいた時の記憶が不意に頭をよぎる。まるで走馬灯のように。

 ──その瞬間私はペンを机に叩きつけた。

「あーもうっ!! 鬱陶しい!」

 忌々しい思い出を頭から排除するかのように私は頭を掻きむしった。
 ······冷静にならないと。

 休憩室の壁に掛けられた時計に目をやる。

「そろそろ時間ね」

 ノートを閉じ、身のまわりの荷物をまとめる。
 休憩室の隅に置かれる姿見鏡で身だしなみをチェックしたあと、私は電気を消し部屋を後にした。

「お、おはようございます宮坂さん! 今日もよろしくお願いします!」

 洗車中の牧野樟太は、私がくるやいなやその手を止めるとこちらに向き挨拶する。

「今日は早いのね。いつから来てるの?」

「30分前です」

 と言うことは開始一時間前······。牧野樟太の事は好きじゃないけど、そういう心意気は嫌いじゃないわ。──私も見習って頑張るとするか。

「それじゃ時間もまだあることだし、今日はワックスでもかけましょうか」

「はい!」

 ──1時間後。

「はい、これあげる」

 ワックスのお礼に私は缶コーヒーを差し出した。
 本来やらなくてもいい作業をしてもらったお礼······。

「あ、ありがとうございます」

「ところで昨日も言ったけど、今日の研修はあなたが育った地元を走るわけたけど自信の方はどうかしら?」

「そこそこは大丈夫かと······。それと、昨日の帰りにいろんな所をまわってから帰りました。昨日みたいなへまは無いかと思います。多分······」

「そう。期待してるわ」

 ──出庫してから20分。

 今のことろ問題なし。というよりも、会社からほぼ一直線だから間違えようが無いのだけど······。

 ──でも、本番はこれから。

「牧野くん、そこのバス停先でハザードをたいて一旦止まってくれるかしら?」

「あ、はい」

 指定したところにタクシーが停車する。

「いまここでお客さんが乗車されました。それじゃ、樟葉駅に向かってくれる?」

「樟葉駅ですね。かしこまりました」

 そう言ったあとタクシーが走り出す。
 この先の交差点では、樟葉駅へ行く向かうルートが二通りある。

 ──さぁ、どうする?

「お客様、この先の交差点はどちらの道で行かれますか?」

「この辺りはよく分からないから、お任せします」

「かしこまりました。それでは左から行かせていただきます」

「はい」

 そう言うと彼はバンドルを左に回す。

「正解よ牧野くん。どちらかの道に迷ったらまず聞く。そして、ルートもあってるは。······でもまあ、これは序の口。この先も気を抜かないでね」

「はい! ありがとうございます!」
 
 次からが本番。そして、牧野樟太がこの辺に詳しい事を考慮し、今日は少しひねったコースを考えてきた。

「それじゃ、次は○○銭湯に寄ってから△△病院に行ってくれるかしら?」

「············!? あ、はい。○○銭湯に寄ってから△△病院ですね。かしこまりました」

 ふふっ。少し戸惑ったようね。
 それもそのはず、牧野樟太がこのエリアに住んでいた時には○○銭湯は無かったのだから。

 ──ん? でも、おかしいわね······。

 もし、場所が分からなければ『分からない』と申告しなさいと何度も言い聞かせたはずなのに······。
 ──でも、彼はそれをしなかった。······まさかね。

 ──数分後。

「牧野くん、ここ□□温泉よ? 私が言ったのは○○銭湯なんだけど······」

 しらけた目で私は彼を見た。すると彼はハンドルを握りながら少し震えている。

 そもそもこれは意地悪な問題ではあったものの、だけど彼は自信を持って返事をし行動にうつした。 
 つまりそれは、お客様からしてみればドライバーは知っているものだと理解され、絶対に間違えることは許されない。

 ──それが勘違いであってもだ······。

「牧野くん、私が○○銭湯と言ったとき少しでも疑問には思わなかったのかしら?」

「あり······ました······」

 そう言うと牧野樟太の顔色は、次第に青ざめていくのが分かった。
 
 ──この人······物凄く不器用······。もうダメかもしれないわね。そう思い、私は彼に引導を渡してやろうとそう思った。

「牧野くん。あなたタクシーに向いてないと思うは。──だってそうでしょ? 言われたことが何度も守れていないのだから。接客業としては致命的な結果よ?」

「はい······」

 これは仕方の無いこと······。もし、目的地を間違った場合、最悪お客によっては重大な損失を与えてしまう恐れがあるからだ。
 
 もちろん、失敗はだれにでもある。
 だけど彼の場合、今までの経過を見ている限りでは、タクシードライバーとしてのその資質は備わっていないとよく分かった。つまり、向いていないのだ。
 
 その事に早く気付かせるために、私いま彼に今後の分水嶺について宣告する。


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