工業高校には様々な学科がありますが、その中でも【※電気電子科(電気・情報科)】は、私たちが普段の生活で「当たり前」に使っている電気エネルギーやIT・情報通信といった、現代社会のインフラを支える技術の基礎を学ぶ学科です。
(※学校によっては呼び方がことなるかと思いますが、このブログでは電気電子科と書かせていただきます。)
「電気」と「電子」の分野は非常に幅広く、高校で基礎を固めることで、卒業後の進路(就職・進学)の選択肢が大きく広がります。
特に技術者の高齢化が進む現在、若くて意欲ある技術者は社会から強く求められており、将来性の高い分野と言えるでしょう。
この記事では、電気電子科の学びを「エネルギー(電気システム)」と「情報(電子・情報通信)」の2つの柱に分けて、具体的な学習内容や取得すべき資格、そして将来性について詳しく解説していきたいと思います。
工業高校の電気電子科はどういうことを学ぶのか

工業高校の電気電子科は、電気の作り方から、それを送る仕組み、そして小さな電子部品が働く仕組みまで、幅広く学びます。
学校によって学科名やコース分けは異なりますが、ここでは便宜的に「電気システム科(エネルギー)」と「情報科(電子・情報通信)」の2つの側面から解説します。
電気システム科(エネルギー)で学ぶこと
この分野は、主に【強電(きょうでん)】と呼ばれる、大きなエネルギーを扱う電気技術について学びます。
強電は家庭や工場、ビルなどに電気を供給し、安全に利用するための知識と技術を身につけることを学びます。
具体的には
1. 電気の基礎と回路の仕組み
電気の基本的な性質(電圧、電流、抵抗など)から、直流回路や交流回路の計算方法を学びます。
専門科目例: 『電気基礎』『電気回路』
実習例:テスターやオシロスコープといった測定器の使い方を習得します。
基本的な配線作業や、電気を通す仕組みを実験で確かめます。
2. 電気機器と電力システム
発電所で作られた電気が、変圧器や送電線を通り、どのようにして私たちのもとに届くのかを学びます。
また、モーターや発電機、照明器具など、様々な電気機器の原理や構造、メンテナンス方法も学習します。
専門科目例: 『電気機器』『電力技術』
実習例:モーターの分解・組立や、特性の測定。
工場やビルなどで使われる「シーケンス制御」という、電気的な自動制御システムのプログラム作成や配線作業。
3. 電気工事と安全管理
実際に建物の屋内配線や電気設備の設置を行うための知識や技能を学びます。
特に安全に電気を扱うための法令や作業手順は非常に重要です。
実習例:指定された図面に従って、電線管の曲げ加工や屋内配線の実習。
電気設備の点検・保守方法の習得。
この分野の学習は、特に第一・二種電気工事士や第三種電気主任技術者(電験三種)といった、社会で必要とされる国家資格の取得に直結しています。
情報科(電子・情報通信)で学ぶこと
この分野は、主に【弱電(じゃくでん)】と呼ばれる、小さな電流で情報を処理する技術(電子工学、情報工学)について学びます。
スマートフォンやパソコン、ロボットの制御など、IT化が進む現代に不可欠な技術です。
具体的には
1. 電子回路と電子部品の仕組み
トランジスタやダイオード、IC(集積回路)など、小さな電子部品の仕組みと、それらを組み合わせて信号を処理する電子回路について学びます。
専門科目例: 『電子技術』
実習例:半田ごてを使って、電子部品を基板に取り付け、簡単なアンプ(増幅器)や電源回路を製作します。
電子回路シミュレーションソフトを使って、回路の動作を検証します。
2. コンピュータの仕組みとプログラミング
コンピュータのハードウェア(CPUやメモリなど)の構成から、ソフトウェア(プログラム)の作成まで、情報処理の基礎を学びます。
専門科目例: 『情報技術基礎』『プログラミング技術』
実習例:C言語やPythonなどのプログラミング言語の基礎を習得し、簡単なプログラムを作成します。
マイコン(Arduinoなど)を使って、モーターやセンサーを制御し、ロボットや計測機器の仕組みを学びます。
3. 通信・ネットワーク技術
インターネットやスマートフォンなど、情報をやり取りする通信の仕組みや、ネットワーク構築の基礎を学びます。
専門科目例: 『ネットワーク概論』
実習例:LANケーブルの作成や、ルーターなどのネットワーク機器の設定。
この分野の学習は、ITパスポートや基本情報技術者、工事担任者といった資格の取得に役立ちます。
数学が苦手だとダメ?電気電子科の授業は「理論」より「体験」が重要!

「電気の勉強って、難しい計算式ばかりで暗記地獄なんじゃ……」と不安に思っていませんか?
確かにオームの法則などの計算は出てきますが、工業高校の学びは中学校の理科や数学とは(内容)が全く違います。
理由は
1. 「教科書」より「手」を動かす時間が圧倒的に多い
普通科の高校では、1日中机に座って先生の話を聞くのが当たり前ですが、電気電子科では実習という好きな人にたまらない時間があります。
自分の手で回路を組み立てて、ランプがパッとついた瞬間の感動。
半田ごてを使って、バラバラの部品から自分だけのラジオや電子回路を作り上げる達成感。
巨大なモーターを分解して、その力強い動きを肌で感じる迫力。
これらは、まさに大人の工作です。
計算で導き出した数字が、目の前の機械をどう動かすのか。その答えがすぐに目で見て確認できるので、「なるほど、こういうことか!」という発見の連続になるはずです。
2. 数学は「解くための道具」として使うから覚えやすい
中学校の数学は「何のために解いているのか分からない」と感じることが多いかもしれません。
しかし、電気電子科ではこの機械を安全に動かすために、この計算が必要という目的がハッキリしています。
「正解を出すための苦しい勉強」ではなく、「機械を使いこなすための便利な道具」として数学を扱うので、不思議と苦手だった計算もスッと頭に入ってくるようになるはずです。
3. 「分からない」を一人で抱え込まないチームプレー
実習は基本的に数人のグループで行います。
「ここ、どうやって配線するんだっけ?」「この数値、変じゃない?」と、仲間とワイワイ相談しながら進めるのが電気電子科の日常です。
先生も現場経験のあるプロフェッショナルばかりなのて、教科書には載っていない「現場の裏技」を教えてくれることもあります。
結論として、あなたがもし「プラモデルを作るのが好き」「機械の中身が気になる」「じっとしているより動きたい」というタイプなら、電気電子科の授業はこれ以上ないほどエキサイティングな場所になるはずです!
工業高校の電気電子科で取得できる(しておきたい)資格

工業高校の最大の強みの一つは、在学中に専門的な知識・技能を客観的に証明できる国家資格の取得を目指せることです。資格は就職や進学で非常に有利に働きます。
電気システム科(エネルギー)で取得しておきたい資格
エネルギー分野で取得を目指したい、あるいは取得を強く推奨される資格は以下の通りです
1. 第三種電気主任技術者(通称 電験三種)(難関)
需要の理由: ビル、工場、発電所など、一定以上の規模の電気設備の保安・監督者として選任されるために必須の国家資格です。
この資格を持つ人がいないと、大規模な電気設備を動かすことが法律上できないため、企業(特に設備管理、製造業、電力系)からのニーズが非常に高く、高齢化に伴い若手技術者の獲得競争が激化しています。
2. 第二種電気工事士(取得必須級)
需要の理由: 一般住宅や小規模店舗など、身近な電気設備(600V以下)の配線やコンセント、照明などの工事を行うために必要な国家資格です。
この資格がないと、法律で定められた電気工事を行うことができません。電気工事業界はもちろん、ハウスメーカーやビルメンテナンス業界でも、「現場で手を動かせる技術者」の基本スキルとして広く求められています。
3. 第一種電気工事士(やや難関)
需要の理由: 第二種で扱える範囲に加え、最大電力500kW未満の工場やビルなどの大規模な電気工事も可能になる国家資格です。
より複雑で高度な工事や設備管理に携われるため、電気設備工事会社や大規模な施設を持つ企業の設備部門で、責任者クラスの技術者として高い需要があります。
4. 2級電気工事施工管理技士補(できれば取っておきたい資格)
需要の理由: 電気工事の現場において、工程・品質・安全などの施工管理を行う技術者の「補佐」として働ける資格です。
現場の規模拡大や工事の複雑化に伴い、有資格者による適切な施工管理が求められています。
将来的に施工管理技士(現場の責任者)を目指す上での第一歩として、建設業界や電気工事会社で重要視されています。
5. 消防設備士(甲種4類)(余裕があれば)
需要の理由: 火災報知設備や警報装置など、防災に関する電気設備(自動火災報知設備など)の設置工事や点検を行うために必要な国家資格です。
建物の安全に関わる重要な設備であるため、消防法に基づき専門の有資格者による作業が義務付けられています。ビルメンテナンス業界や消防設備工事業界で、建物の安全を守るプロとして高い需要があります。
※乙種は受験資格はありませんが、甲種はあります(電気工事士があればOK)。
ポイント: 第二種電気工事士は、電気技術者としての第一歩です。在学中に確実に取得を目指しましょう。
情報科(電子・情報通信)で取得しておきたい資格
情報・電子分野で取得を目指したい資格は以下の通りです。
1. ITパスポート(出来れば取っておきたい資格)
需要の理由: ITを利活用する全ての人にとって必要な、基礎的なIT知識(経営戦略、情報セキュリティ、ネットワークなど)を証明できる国家資格です。
IT業界だけでなく、金融、製造、サービス業など、あらゆる企業がデジタル化を進める中で、「ITリテラシーのある人材」の基本証明として、企業研修や就職活動で広く評価されています。
2. 基本情報技術者(やや難しいが取っておきたい資格)
需要の理由: ITエンジニアの登竜門とされる国家資格です。プログラミング、アルゴリズム、データベース、ネットワークなど、システム開発や構築の基礎的な知識と技能を証明できます。この資格を持つことで、企業は「一定レベルの技術者としての素養がある」と判断するため、ITサービス企業やシステム開発会社への就職・転職で極めて有利になります。
3. 応用情報技術者(難関)
需要の理由: 基本情報技術者よりも高度で、システム開発の上流工程(企画・設計)や、技術的な課題解決能力を証明できる国家資格です。この資格を持つ人は、プロジェクトマネージャーや上級エンジニアへのステップアップに必要な知識を持っていると見なされ、高い専門性と応用力を求めるIT企業や、自社システムの企画部門で特に高い需要があります。
ポイント: ITパスポートは、情報系の知識を証明する上で非常に有効です。基本情報技術者試験は、IT分野でのキャリアを目指すならぜひ挑戦したい資格です。
工業高校の電気電子科の将来性

結論から言うと、工業高校の電気電子科の卒業生は、非常に高い将来性を持っています。その理由は、この学科で学ぶ技術が「社会の基盤」を支えるものであり、どの時代、どの産業においても必要不可欠だからです。
1. 産業界からの高いニーズと「引く手あまた」の状況
現在、多くの企業でベテラン技術者の退職が進んでおり、若くて専門知識を持つ技術者の需要が急増しています。特に電気系の技術者は、電力・インフラ、製造業、建設業、設備管理など、あらゆる産業で求められています。
就職の幅広さ:電力・インフラ系: 電力会社、JR、地下鉄などの鉄道会社、ガス会社。
電機・電子メーカー: 家電、半導体、自動車部品、ロボットなどの製造企業。
建設・設備管理: ビル、工場、マンションなどの電気設備工事、保守・点検を行う企業(ビルメンテナンスなど)。
通信・IT系: 通信キャリア(NTT、KDDIなど)、IT企業のネットワーク部門。
資格を多く取得している生徒は、企業から直接「この子に入社してほしい」と声がかかる(学校推薦)ことも多く、就職先を選ぶ立場になれる可能性が高いです。
2. 新しい技術分野への応用力
電気電子科で学ぶ基礎知識は、進化する最先端技術にも応用できます。
再生可能エネルギー: 太陽光発電、風力発電などの設備の設計・保守。
IoT(モノのインターネット): あらゆる機器をインターネットに繋ぐための電子回路やネットワーク技術。
AI・ロボティクス: ロボットや自動運転技術の制御システム(電子・情報技術)の開発。
卒業後のキャリアパスとして、これらの成長分野での活躍も期待できます。
3. 進学にも有利な専門性
就職だけでなく、進学の道も開けています。
大学・専門学校への進学: 専門高校推薦入試などを利用して、有名私立大学や国公立大学の工学部(電気電子工学科、情報工学科など)へ進学する生徒も少なくありません。高校で学んだ知識を活かして、より高度な技術を学ぶことができます。
工業高校で専門スキルを身につけ、さらに資格でそれを証明することは、進学後も大きな強みとなります。
まとめ:電気電子科の未来は明るい!
工業高校の電気電子科は、単に電気の知識を学ぶだけでなく、将来の安定したキャリアと社会に貢献できる技術を身につけるための最高のスタート地点です。
電気システム(エネルギー)で、社会のインフラを支える力。
情報科(電子・情報通信)で、未来のIT社会を構築する力。
これらの力を手に入れることで、あなたの可能性は無限に広がります。難しそうに聞こえるかもしれませんが、工業高校では座学だけでなく、実習を通して「ものづくり」の楽しさを体験しながら学べるので、普通校にはない経験がえられるはずです。
もしあなたが「社会の役に立つ仕事がしたい」「手に職をつけたい」「電気やコンピューターに興味がある」と感じているなら、ぜひ電気電子科を検討してみてください。
頑張れ、高校受験生!夢の実現に向けて、応援しています!
次の一歩として、あなたの志望する工業高校の電気電子科がどのようなコース分けをしているか、具体的なシラバス(授業内容)や、過去の先輩の就職・進学先を調べてみる事から始めてみましょう!
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